天保山登頂の興奮も冷めやらぬ間、我々はすぐに下山準備に取りかかった。なんとしても日没までに対岸へ渡りたかった。
登って来た道とは反対側へ降りるルートを選択する。来たときと同様、一歩一歩確実に進むと、10歩で麓に辿り着いた。額からしたたる汗を拭うと、眼前に海が広がっていることに気づいた。いや海ではない。広大な河だ。大阪港へ豪快に注ぎ込む安治川である。
足がすくむ。「これを渡るのか!」
ふと見ると、海上消防庁の船が停泊していた。万が一に備え、短縮ダイヤルに入力だけはしておこう。
しかし、予定のルートとは違うようだ。サポーターに地図を確認させる。このままでは、出航時間に間に合わない!
今の時間、1時間に2本しかないから、この便を逃すと30分は待たなければならない。電車で帰るのはイヤだ。せっかく来たのだから渡し船に乗りたい。気持ちが焦る。
祈りが通じたのか、高校生の団体がモタモタしており、間一髪セーフ。
冬の海、もとい!冬の河は風も強く、波が高い。女子高生たちの甘い香りが潮風にかき消されてしまった。残念だ。
それよりも大変なことを思い出した。焦りから酔い止めを飲むのを忘れた。私は極端に乗り物に弱い。自分で運転してても気持ち悪くなるくらいだ。
この波に耐えられるのだろうか。
そんなことはおかまいなしに、船は湾岸線の下を通過する。
はるか遠くに、先ほどまでいた天保山の山頂が見える。さすがは4,530mm級の山だ。観覧車や海遊館が邪魔をし、しっかり目を凝らさないとどこにあるのか分からない。
記念撮影を始める女子高生。揺れに必死に耐えるオヤジ。まだか!
ようやく対岸に着いたとき、私の身体は揺れていた。気持ち悪い。
自力では財布を取り出すことが不可能だったので、サポーターに立て替えてもらおうと思ったら、「タダです」。
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