2015年に誕生した大阪・堺の「さかい利晶の杜」の東側に「ちく満(ま)」というお蕎麦屋さんがあります。創業は元禄8年(1695年)。320年以上続く老舗店です。
さぞかし情緒あふれるお蕎麦屋さんだと思って行くと、おったまげますからご注意ください。
大阪でありながらわが道を貫く堺、決して御上には屈しない堺、小ネタ隊の想像をはるかに凌駕する異国の地・堺。「ちく満」は、さすがは堺!と唸らせる、超ド級のインパクトあるお店です。
セメント工場のようなお蕎麦屋さん
まず、店構えからして超ド級のインパクトです。
外観はどっからどう見たって、セメント工場。よく言って製粉工場。
看板には「生そば」と出ていますが、ものすご〜く入りずらいです。「うちは常連さんだけでよろしいねん」みたいな難波には見られない鎖国感があります。
店頭?に出された張り紙がまたすごい。
お昼の混んでいる時間帯は、一人ではクルマで来たらアカンらしいです。
今の世の中、こんなに上から目線で成り立つのか?と思ってしまいますが、これがまた毎日長蛇の列。20〜30分待ちは当たり前。
メニューは「せいろそば」一種のみ
恐る恐る暖簾をくぐると、どう見てもセメント工場です。
「あれ?やっぱり工場の食堂なんやろか」と思うのですが、またまた上から目線の「おしながき」。
いや「おしながき」とは書かれていません。「ねだんがき」です。しかもほぼひらがな。「さいだー」「じゅうす」300円はなかなかのおねだんです。
まったくもって不思議な店なのですが、外観のボロボロ度に反して店内は非常にいい感じで、蕎麦にかなり期待が持てそうです。
メニューは「せいろそば」一種のみ。
1斤(800円)もしくは1.5斤(1000円)しかありません。2斤はなく、追加はおかわり(700円)。
ちく満のお作法に則っていただく「せいろそば」
ほどなく、名物の「せいろそば」が登場します。
せいろの上に、お椀と生卵と薬味が乗っています。さすがは千利休の町。
食べ方にもお作法があります。
では、お作法に則って、ちく満名物「せいろそば」を頂くことにしましょう。
めんつゆは激アツですから、おしぼりを巻いて注ぎます。
中から湯気がボワッ〜と立ち上ります。
「旨そう〜」と言いたいところですが、「のびとる〜」。
「せいろの蓋を開けるのが遅すぎたか〜」と、一瞬焦りましたが、これが本来のカタチらしいです。
伊勢うどんの蕎麦バージョン
いよいよ実食です。
蕎麦のような長い食べ物を、出汁に付けていただきます。
簡単に言ったら、ざる蕎麦を食べるのとまったく同じ要領ですが、食感はざる蕎麦とはまったく異なります。
生まれて初めて口にする食べ物です。
強いて言うなら、伊勢うどんの蕎麦バージョン。
伊勢うどんも、讃岐うどんをイメージしながら食べると、「のびのびやがな〜!」となりますが、ちく満のせいろそばも同じ。全国の有名どころを食べ歩いてきた蕎麦通なら、「なんじゃ、こりゃ〜」となるでしょう。
通常、蕎麦は湯がきたてを水でシメていただきますが、ちく満のせいろそばはここからさらに一手間かけます。シメた蕎麦をせいろに持って蒸すわけです。しかも、じっくり。
生卵を入れた濃いめの出汁は、さすがに関西です。醤油が前面に出ることなく「旨い!」
最後にかまくらを注ぎ、熱々卵スープをいただく
出汁は飲み切らないで、アッツアツの「かまくら」を注ぎます。
「かまくら」というのは、簡単に言ったら「そば湯」のこと。上から見ても下から見ても「そば湯」なのですが、そこは異国の地・堺の本領発揮。これは「かまくら」と呼ぶのだそう。
しかし仁徳天皇陵の世界遺産登録申請を行うなど、長年の鎖国状態からやや開国傾向になったのか、最近は世界共通語の「そば湯」として出てきます。
アッツアツのそば湯を注ぐと、先ほどの生卵の残りがパーッと広がり、醤油ベースの卵スープに早変わり。これはこれでなかなか「旨い!」です。しかも温まります。
好き嫌いは極端に分かれる。判断は自分で確かめよう
さて、肝心のお味の方は…
好き嫌いがはっきり二分される「お・あ・じ」。
蕎麦の実の味を感じたい人、ちべたい水でキュッとしまった蕎麦が好きな人には向きません。
小ネタ隊のように、あたまの柔らか〜い、固定観念のない人には、たま〜に食べたくなる優しいお味です。ちなみに蕎麦の実の味は全くしませんので、悪しからず。あくまでも蕎麦のようなカタチをした食べ物なのです。
死ぬまでに一度は行っておきたい価値のあるお店です。